入管法に詳しい某行政書士の雑記ブログ

入管法に詳しい行政書士が気ままに語ります。

~よく目にする法令用語の意味の違いについて~「及び/並びに」「又は/若しくは」等の使い分けの仕方

 行政書士は、「行政書士法に定められた官公署などへの手続きや権利義務、事実証明関係書類などに関する法律と実務の専門家」です。常日頃、行政書士は、法律専門職として、法令用語の使い分けを間違いないように気を付けています。

 

 今回は、日常でもよく目にする下記法令用語の意味の違いや使い分けについて、解説をしたいと思います。

 ①「及び」、「並びに」、「かつ」

 ②「又は」、「若しくは」

 ③「とき」、「時」、「場合」

 ④「直ちに」、「遅滞なく」、「速やかに」

 ⑤「その他」、「その他の」

 

1.「及び」、「並びに」、「かつ」について

「及び」、「並びに」、「かつ」はどれも二つ以上の文言をつなぐ接続詞ですが、用法は次のように異なっています。

 

(1)「及び」

 一つの物事と別の物事の二つを結び付けたり、同時に取り上げる場合は常に「及び」を使います。

(例)民法176条(物権の設定及び移転)
 「物権の設定及び移転は、当事者の意思表示のみによって、その効力を生ずる。」

 

 単純並列的な接続詞が多くなる場合は、最後の接続詞だけに「及び」を使って、それより前の接続はすべて読点を使ってつなぎます。

(例)民法774条3号(証人及び立会人の欠格事由)

   公証人の配偶者四親等内の親族書記及び使用人

 

(2)「並びに」

 接続の段階が二段階以上の場合、一番小さい接続だけに「及び」を使い、それ以外の接続はすべて「並びに」を使います。

 (例)民法774条2号(証人及び立会人の欠格事由)
  推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族

 

(3)「かつ」

 「かつ」は、「又は」や「並びに」と類似した意味で使われ、特に決まった用法はありませんが、連結される語が互いに密接不可分で、両方の語を一体として用いることにより意味が完全に表せる場合に使います。

 (例)民法162条(所有権の取得時効)
  二十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。

 

2.「又は」、「若しくは」について

 どちらもある物事とある物事のうち、どちらか一方を取り上げることを表す場合に使い、下記のように使い分けをします。

(1)「又は」

 二つの物事のうち、どちらか一方であることを表す場合は、常に「又は」を使います。

(例)民法96条(詐欺又は強迫)
 詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。

 

 それぞれ等格の3つ以上の物事の中から一つを選ぶ場合、最後に掲げる物事の前だけ「又は」を用い、他は読点を使います。

(例)民法120条2項(取消権者)
 錯誤詐欺又は強迫によって取り消すことができる行為は、瑕疵ある意思表示をした者又はその代理人若しくは承継人に限り、取り消すことができる。

 

(2)「若しくは」

接続の段階が二段階以上の場合、大きい接続だけに「又は」を使い、それ以外の接続にはすべて「若しくは」を使います。

 (例)民法120条2項(取消権者)
 錯誤、詐欺又は強迫によって取り消すことができる行為は、瑕疵ある意思表示をした者又はその代理人若しくは承継人に限り、取り消すことができる。

 

3.「とき」、「時」、「場合」

 「とき」は必ずしも「時点」という限定した意味ではなく、広く「場合」と同じ意味で使います。

 「時」は、時の経過のなかのある一点をとらえて、時期、時刻というような限定した時点を示す用語として使います。

(例)民法3条の2

 法律行為の当事者が意思表示をしたに意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする。

 

 「場合」は仮定的条件を示すときに、又は既に規定されたある場合を引用する包括的条件を示すときにその趣旨を表す語として使います。

 「とき」と「場合」の両者を用いるときの使い分けは、最初の大きな条件のときには「場合」を、次の小さな条件を表すときには「とき」を使います。

(例)民法19条1項(審判相互の関係)
 後見開始の審判をする場合において、本人が被保佐人又は被補助人であるときは、家庭裁判所は、その本人に係る保佐開始又は補助開始の審判を取り消さなければならない。

 

 

 

4.「直ちに」、「遅滞なく」、「速やかに」

(1)「直ちに」

 3つの中で一番時間的即時性が強く、何をおいても、すぐにやれという趣旨を表そうという場合に使います。

 (例)民法1007条1項(遺言執行者の任務の開始)
 遺言執行者が就職を承諾したときは、直ちにその任務を行わなければならない。

 

(2)「遅滞なく」

 時間的即時性は強く要求されるが、その場合でも正当な、又は合理的な理由に基づく遅滞は許されるというように解されており、事情の許す限り、最も速やかにという趣旨を意味します。

(例)民法1007条2項(遺言執行者の任務の開始)

 遺言執行者は、その任務を開始したときは、遅滞なく、遺言の内容を相続人に通知しなければならない。

 

(3)「速やかに」

 もちろんできるだけ早くという意味ですが、訓示的な意味に用いられ、これに違反し、義務を怠った場合でも前二つのように違法という問題が生じない場合に用いられます。

(例)民法860条の3第2項 

 成年後見人は、その受け取った前項の郵便物等で成年後見人の事務に関しないものは、速やかに成年被後見人に交付しなければならない。

 

5.「その他」、「その他の」

(1)「その他」

 「その他」の前にある名詞(名詞句)と「その他」の後にある名詞(名詞句)が並列の関係にある場合に用います。

(例)民法145条(時効の援用)
 時効は、当事者(消滅時効にあっては、保証人、物上保証人、第三取得者その他権利の消滅について正当な利益を有する者を含む。)が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない。

 

(2)「その他の」

前置される名詞又は名詞句が後置される言葉の中に包含され、例示としてその一部をなす場合に用います。

(例)民法75条 (物権の創設)
 物権は、この法律その他の法律に定めるもののほか、創設することができない。

 

 

いかがだったでしょうか。

普段、上記の用語を意識的に使い分けている方はあまりいないのではないでしょうか。ぜひ、用語が出てきたときは用法の違いを意識して読んでみたり、使い分けをしたりしてみてください。